"0111現代中国 若者覆う絶望感 変革へ動く人々の声届け 映画監督 ジャ・ジャンクーさん :日本経済新聞"

現代中国の変貌に目を向け、地方出身者や変化に取り残された人々の心模様を映像に切り取ってきたジャ・ジャンクー監督。物質的な急成長の中で、近年の若者は「絶望感に覆われている」と語る。

広東省の工場で、待遇に不満を持つ農村からの出稼ぎ労働者十数人が相次いで飛び降り自殺をした事件が2010年にあった。若い監督たちと制作した最新作「我が道を語る」はこの事件に触発されたドキュメンタリーだ。

田舎から出稼ぎに来ている彼らに希望へ向かう道は少なく、絶望感に覆われているのも無理はない。立ちはだかるのは社会の腐敗や権力の集中など、彼らの努力だけでは解決できないことだ。それらを変えていかなければならないと思う。

中国の社会全体が大きく変貌する中で、個人の存在とはいかなるものなのか。事件によってこのことが私の心に引っかかった。若者たちは絶望して自殺に追い込まれたが、私には個人の努力で少しでも状況を変えることができるのではないかとの思いがあった。映画では起業家や芸術家、ボランティア活動家ら、前向きに生きている12人に来し方を語ってもらった。彼らに共通するのは勇気と知恵を持ち、自分の生活を変えようと努力していることだ。

例えば不動産デベロッパーの男性は貧しい家庭の出身で何の資本も持っていなかったが、努力を重ねて大企業の経営者になった。中国を代表する舞踊家の男性も小柄というハンディを乗り越えて成功した。この映画で語りたいのは、若い人たちに絶望しないでほしいということだ。

■そんな中で、人々の思考に大きな変化をもたらしているのがネット上に短文を書き込むミニブログだという。

今やミニブログは多くの人たちに行き渡っている。これまでは政府系メディアによって情報がもたらされたが、ミニブログを通じて中国で起きていることを理解したり、皆で討論したりすることもできるようになった。温州で発生した高速鉄道事故の時もたくさんの人たちがミニブログで発言した。そういうことができるようになったことは大きな進歩だと思う。

ミニブログを通じて人々に呼びかけ、社会問題を解決しようという人も出てきた。例えば数年前、誘拐被害者を闇レンガ工場で働かせていたという事件が問題になったが、これを解決しようと呼びかけている人は実はとてもファッショナブルな企業の代表だ。こういう手段によって中国の現実を変えていくこともできるのではないか。

■前作の「海上伝奇」も個人のインタビューを通じて中国の近代史を見つめた作品だった。

これまでの中国の歴史は官による記録だったが、それとは違う個人の思い出や記憶にますます興味が湧いてきた。歴史年表には載らないような個人の歴史を映画にしたい。

未来の中国の姿はあまり予測したくない。あまりにも多くの矛盾を抱えているからだ。今、中国では富と貧困、官と民という対立が顕著になっている。個人の努力や経済の力だけではなく、政治によって変革をもたらす必要があると思う。

(聞き手は 文化部 関原のり子)

ジャ・ジャンクー 1970年、中国山西省生まれ。北京電影学院在学中から自主映画を制作。2006年「長江哀歌」でベネチア国際映画祭金獅子賞。「我が道を語る」は昨年11月の映画祭、東京フィルメックスで上映。

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