"0116(上)中台経済圏、拡大へ 日米欧との連携課題 :日本経済新聞"

台湾の総統選挙で14日、馬英九総統(国民党主席)が再選を果たした。馬政権が1期4年で進めた中国との融和路線が支持された形で、中台の経済交流は日本など周辺国を巻き込んで拡大する見通しだ。ただ、中国が望む政治分野の協議には台湾住民の拒否感が強く、中台関係には危うさが残る。2期目の馬政権が東アジアの政治・経済情勢に与える影響を展望する。

中国依存度高く

「中国との安定した関係の発展は今後も続けるべきだ」。総統選を10日後に控えた4日。台湾の化学大手、奇美実業の廖錦祥董事長が地元メディアに語った言葉に、台湾独立を志向する野党・民進党は衝撃を受けた。

無理もない。奇美の創業者、許文龍氏は急進的な台湾独立の主張で知られた人物。しかも、廖董事長の娘婿は民進党の立法委員(国会議員)候補だった。にもかかわらず、奇美が事実上の国民党支持を表明したからだ。

奇美だけではない。EMS(電子機器の製造受託サービス)世界最大手の鴻海精密工業など、台湾の有力企業のトップは今回、こぞって馬総統支持を明確にした。長く戒厳令下にあり、企業が政治的発言を慎んできた台湾では珍しい現象だ。

1990年前後から、香港経由などで始まった台湾の対中投資。中国は最大の対外投資先となり、その金額は累計で1000億ドル(約7兆7000億円)を超す。相次いだ馬総統への支持表明は、台湾企業が中国からもはや離れられないことの裏返しだ。

チャイワン実現

「台湾に帰って投票したらどうですか。切符も手配できますよ」。中国広東省に工場を持つ台湾企業幹部は総統選前に取引先から、こんな提案を受けた。「国民党に投票しろという中国側のメッセージだ」。この幹部はそう受け止めた。

郭台銘董事長(左)が率いる鴻海精密工業の工場着工式に出席した馬総統(昨年10月、台中市)

中国にとっても大量の雇用を生み、地方経済を支える台湾企業は欠かせない。蔡英文主席の当選で民進党が4年ぶりに政権復帰すれば、経済交流が停滞する恐れがあった。中国は欧州債務危機の余波で輸出に陰りが出ており、経済面でも馬総統の再選を望んでいた。

馬政権の4年間で、中台の産業連携は深まった。例えば、鴻海や仁宝電脳工業など台湾のEMS大手は2010年秋以降、中国内陸部の重慶市、四川省成都で相次ぎ新工場を稼働させた。台湾勢はIT(情報技術)産業の隠れた巨人で、ノート型パソコンでは世界生産の9割を担っている。

内陸進出は「航空直行便の就航が決め手の一つになった」(仁宝)。馬政権の発足前はゼロだった中台間の航空直行便は、週500往復を超えた。台湾製の電子部品を空輸し、人件費の割安な内陸で組み立てる事業モデルが実現した。「チャイワン」と呼ばれる中台の産業連携の実例だ。

中台は当局どうしも経済一体化で思惑が一致する。馬総統の再選を受け、10年に締結した経済協力枠組み協定(ECFA)を足場にさらに交流を深める構え。関税撤廃品目の拡大や、投資・サービスの自由化も進める。

ライバルは韓国

中台連携の広がりは、周辺国の企業も動かす。「台湾企業を紹介しますよ」。中国・上海の丸紅現地法人は昨秋、化学品や食品、金融などの中国企業を引き連れて台湾を訪れた。「ECFAが軌道に乗れば、中台合弁の領域は一段と広がる。その橋渡しが我々の商売になる」。現法の世一秀直社長はこう読む。

もっとも、中国はしたたかだ。今月9日には胡錦濤国家主席が北京で韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領と会談。中韓自由貿易協定(FTA)の交渉開始に向けた準備作業を加速することで合意した。

サムスン電子を筆頭とする韓国勢は、台湾企業が液晶パネルや半導体などIT分野で激しく世界シェアを競うライバル。韓国はすでに米国とFTAを締結し、欧州連合(EU)とは発効済みだ。中韓FTAが実現すれば、中国市場でも台湾勢の優位は薄れる。

一方、台湾がFTAを発効させた国は、中国を除くとパナマなど中米5カ国だけ。主要国とはシンガポールと交渉入りし、ニュージーランドと実現に向けた共同研究を始めた段階にとどまる。

総統選では、「中国一辺倒」という批判も民進党の支持を広げる要因になった。2期目の馬政権は中国とのパイプを武器に、日米欧など主要国といかに経済関係を強化するかが課題となる。

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