"0122「クールジャパン」をどう売る 上野氏「海外人材育て企業を変革」 梅沢氏「コンテンツや食を一体で」 :日本経済新聞"

「クールジャパン」と呼ばれるアニメや食など日本独自の文化・ソフト産業が新たな輸出の担い手として注目を集めている。「日本」をどう売るか。多くのキャラクターを抱える玩具大手バンダイの上野和典社長と、政府の有識者会議のメンバーで、コンサルティング会社A.T.カーニーの梅沢高明・日本代表パートナーが語り合った。(文中敬称略)

――官民有識者会議はクールジャパン戦略を打ち上げました。狙いは何ですか。


A.T.カーニー日本代表・梅沢高明氏

梅沢 ファッション、食、メディアコンテンツ、地域産品、住まい、観光の6分野を創造的な「クリエーティブ産業」と位置付け、経済産業省を中心に育成を始めた。同時に日本のソフトパワーを情報発信し、現在2兆円程度の海外での事業規模を2020年までに10兆円規模に拡大するのが当面の目標だ。

個別の「点」の努力だけでなく、これをつなげて「面」で勝負する戦略が求められる。日本文化の魅力を広くアピールし、コンテンツや食など日本文化を一体として輸出していきたい。

フランスはドゴール大統領時代に高名な作家を大臣に据えて、文化立国政策を推進した。それが今の力につながっている。高級ブランドのモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)など文化企業が国の経済を支えている。バンダイは海外展開では歴史も古く、期待も大きい。

バンダイ社長・上野和典氏

上野 期間は長いが、本当に世界を席巻したのは「たまごっち」と戦隊シリーズの「パワーレンジャー」だけ。今はガンダムや仮面ライダーも紹介しているが、そこまでは至っていない。確かに日本の商品に潜在力はあるが、売り方が弱い。当社に米国の娯楽業界のアドバイザーがいるが、「バンダイは宝の山だ。なんでもっと仕掛けないのか」と言ってくる。

――日本の内向きな体質が独自の文化を生んだ側面もあります。海外戦略との両立はうまくいきますか。

梅沢 クールジャパンの成功で不可欠なのはいかに開国するかだ。日本のクリエーターの世界に外国人がどんどん入ってきて欲しい。そのためには移民政策など制度面の手直しも必要となる。例えば外国人が日本の調理学校で日本食を学んでも査証(ビザ)の関係で日本国内のレストランでは働けず、日本企業の戦力になれない。すしチェーンが世界展開しようとしても人材面で足かせとなる。

上野 当社の売り上げの大半は日本。内需が大きかったので、海外を伸ばさないといけないという危機感がなかった。しかしメガヒット一発で3年は潤うので海外に売り込みたい。そのためには海外で活躍できる人材を育てることが重要だ。今は長期的な視点で新人から外国人採用を増やしている。15人ぐらいかな。

日本の徒弟制度のような人間関係が合わない人もいるが、育ってきた人もいる。組織が変わるきっかけになっている。体質を完全に変えるには10年かかるが、3年ほどでだいぶ変わってきた。競合他社へ転職するなどのリスクもあるが、今は開発の中枢に入れている。

梅沢 グローバル展開には新しい発想が不可欠だ。同じ業界で手を組んで市場を開拓していくことが大事だ。例えば中国の一等地では1階は家賃が高く、個別企業ではなかなか入居できないが、まとまれば家賃交渉もできる。食品産業も農業・漁業から加工食品、給食など太いサプライチェーン(供給網)ごとに出て行くと効果的ではないか。

上野氏「クリエーターへの支援を」 梅沢氏「ネット時代への対応急務」

――日本の文化は海外でどのように受け止められていると感じていますか。

上野 確かにコンテンツのユニークさは感じてもらっているが、地域によって温度差がある。アジアではストレートに日本を評価してもらっているが、欧米の場合、米娯楽大手ディズニーが圧倒的に強いし、ハリウッドの影響力が大きい。日本のロボット玩具「トランスフォーマー」も、ハリウッドが映画を作ったことで人気が高まった。

ハリウッドの強みはキャラクターだけでなく、その背景にある世界観も売るということ。確かにフランスなどで日本のアニメの登場人物の格好をするマニアもいるが、個々のパーツが好まれているだけで世界観が受け入れられているわけではない。

梅沢 クールジャパンは一部のマニア向けではなく、もっと幅広い。例えばすしの場合、ロンドンにある「YO!SUSHI」は英国に50店以上あり、中東などにも進出している。「wagamama」という英国のラーメン店は17カ国に展開している。ただ日本食のチェーン店を世界で広げているのはいずれも外国人で、本家本元の日本からの発信ではない。

――市場開拓にはどんな対策が必要でしょうか。

上野 今はテレビを通じてアピールして、グッズを売るというモデルだが、これでは古い。

梅沢 ハリウッドが関与すれば世界に売れるが、収益面でハリウッドが有利になる。有力なテレビ局はハリウッドが牛耳っており、ネット時代に対応することが課題になる。

上野 ネットは意識している。ガンダムの新作もネットに同時配信している。1週間で100万回のダウンロードがある。

――国は効果的な支援ができるでしょうか。

上野 すべて国が解決できるわけではない。だが日本文化を生み出すクリエーターや職人は世界から尊敬されている。こうした人をバックアップし、その存在を広く知らしめることに期待したい。

梅沢 一人で海外に出るのは資本やノウハウの点で難しく、クリエーターの海外進出を支援する仕組みが必要だ。韓国は今やファッションや食など海外市場を席巻しているが、10年前まではそこまでの力はなかった。だがハリウッドに学び、国の補助もあってここまできた。海外で稼いでカネがクリエーターに回らないと新たな成長もない。

うえの・かずのり 77年(昭52年)武蔵工業大(現・東京都市大)工卒、バンダイ入社。05年社長。チーフ・ガンダム・オフィサーの肩書も。58歳。

うめざわ・たかあき 86年(昭61年)東大法卒、日産自動車を経て米A.T.カーニー入社。99年から日本法人、07年から現職。49歳。

<聞き手から>受け身体質脱し継続的な発信を

「日本ってかっこいい」という意味を示すクールジャパンだが、最初は海外で名付けられたものだ。日本固有の食文化である「すし」も主に外国人が海外で事業展開しているように、経済のグローバル化が進んでも日本の社会体質は受け身なまま。「三つ星レストランの数で東京はパリを上回る」(梅沢氏)という資源を国富に結びつけられない歯がゆさがある。

ブランドは一日にしてならず。新興国の低価格品に押される工業製品と違い、文化・ソフト産業は価格よりも価値が優先される。海外市場を開拓するには「私っていかしているでしょう」という積極性と継続的な情報発信力が欠かせない。

(編集委員 中村直文)



コンテンツ大国と言われる日本。東京・秋葉原には日本のアニメ・漫画ファンの外国人が世界各国から多数訪れる。だが最近は韓国発のドラマ、中国発のアニメなど、アジアのコンテンツも存在感を強めている。

経済産業省が昨年5月に発表した「クール・ジャパン戦略推進事業」の調査報告書によると、日本の2010年のコンテンツ市場規模は352億ドル(約2兆6993億円)と米国に次ぐ規模だ。アジア各国(日本を除く)の市場は現時点で合計しても日本に及ばないが、成長率は7%で、20年には日本を約5割上回る規模になると試算している。

玩具メーカーやアニメ制作会社など日本のコンテンツ各社もアジアでの成長を狙うが、著作権管理などが壁となり、順調に進んでいない企業が多いのが現状。日本貿易振興機構(ジェトロ)はアニメや映画などの海外見本市にジャパンブースを出展し、日本のコンテンツ企業と現地の有力企業との商談支援も進めている。



「クールジャパン」は競争力があるか――。日本経済新聞電子版の読者に尋ねたところ62%が「ある」と答えた。「日本人の繊細な感性が生かされた分野だ」として期待する意見が目立った。海外在住者からは「現地の子どもの流行は日本文化一色だ」との実感のこもった声も聞かれた。

「かつてあったが、低下している」との回答は27%。「中国など新興国への技術やノウハウの流出」を恐れる人が多い。「人材育成の環境を整えるべきだ」との意見も相次いだ。競争力が「ない」との回答は11%だった。

世界に発信する手段についての問いでは「関連する企業や個人に補助金などを給付する」(23%)「政府内に専門組織を設置する」(同)など国による産業育成を望む意見がある一方、「特に必要ない」との回答も24%に上った。

Tags: 01日本