"0123国境なき就活 若者、成長続くアジアへ 自分磨き志し「片道切符」 給与・昇進 リスクも覚悟 :日本経済新聞"

活躍できる職場を求め、海外で就職先を探す若者が目立ってきた。閉塞感のある日本を飛び出して向かうのは、アジアの新興国。高度成長のまっただ中に身を置く高揚感があり、世界市場を肌で感じながら働くことができるからだ。20代から30歳前後は内向き志向が強いと指摘される世代だが、現地採用という“片道切符”の道をあえて選び、将来のキャリアを見据えて自分磨きに努めている。

 

日系物流会社の上海オフィスで働く高橋さん(右)

 

「卒業証書をもって、熱帯雨林へ」――都内の理工系大学院に通う高野温さん(24)は昨年6月、ソニーのグループ会社の求人広告に目がくぎ付けになった。

勤務地はマレーシア。ソニーの現地法人によるローカル採用になるため、海外駐在員のように日本の本社に戻れる保証はない。それでも高野さんは即座に応募し同年9月に内定を得た。

海外での就職に興味を持ったのは、学会で訪れた中国や韓国での体験がきっかけだ。「新興国の人々のエネルギーに圧倒された。自分が成長するためにも、そういう環境に身を置きたいと思った」。当初は両親に猛反対されたが、熱意を伝えて理解を得たという。

100倍超す応募

ソニーにとっても海外法人で日本の新卒者を直接採用するのは初めての経験だ。採用担当の小林康裕統括課長は「数人の枠に100倍以上の応募があった」と反響の大きさに驚く。

「中国人の現地スタッフと日本人の駐在員との懸け橋になっている実感がある」。日系物流会社の上海オフィスで昨秋から働き始めた高橋雅幹さん(31)は充実感いっぱいの日々を送っている。

大学を卒業し東北地方の自動車ディーラーで4年間、営業を経験した。だが、どこか物足りない。「海外でスキルを身につけ、チャンスを広げたい」。そんな思いから中国留学に踏み切り、今の会社では営業部門をまとめる。

人材紹介大手のジェイエイシーリクルートメントによると、中国での就職希望者は年々増加。現在は年100人近くを紹介しているが、30歳前後が6~7割を占めるという。ただ近年は外国人就業規則の運用が厳格化しており、実務経験のない日本人留学生が、中国でそのまま働くのは難しくなっているのも実情だ。

駐在員などとして海外で働くことを夢見る若者は以前からいた。ただ企業で駐在員になれるのは30代半ば以降のことが多く、必ずなれる保証もない。「いつかは海外」と座して待つのではなく、転職してでも即座に機会をつかもうとする若者も増えている。

神奈川県に住む山下一之さん(仮名、25)は今春、4年勤めた会社を辞めシンガポールに赴く。今の会社に不満はない。上司も「いずれは海外駐在に送る」と言ってくれている。しかし若いうちから海外で挑戦したいとの思いは強く、迷った末に「悔いを残したくない」と転職を決めた。

シンガポールでは、日系の大手商社の現地スタッフとして日本や台湾、東南アジアの企業を相手に営業の仕事に携わる。給料は今より下がる見通しだが「人とは違う経験を積み、いつかは日本に戻ってその経験を役立てたい」と考えている。

意識が明確に

ジェイエイシーのシンガポール事務所の泊和哉マネージャーは「リーマン・ショック後、『英語を使えれば』という曖昧な理由でなく、明確なキャリア意識を持つ求職者が増えた」と話す。

日系企業の海外拠点ではなく、現地企業にいきなり飛び込む人もいる。

鈴木慎太郎さん(30)は2010年5月にインドの首都ニューデリーに移住し、人材会社の仲介を受けて現地の会計事務所に就職した。インドに進出する日本企業に対し、法律や税務面のアドバイスをするのが主な仕事だ。

日本では将来に閉塞感を覚えることもあった。しかし今は急速な経済成長のまっただ中で働くことに「緊張感とやりがいを感じている」。将来は「インドでの経験や人脈を生かした仕事をしたい」と話す。

現地採用の場合、給与や昇進などの処遇面で駐在員より不利になることもある。それでも「若いうちなら、失敗してもやり直しがきく」(山下さん)と覚悟を決めてリスクを冒す選択肢もある。

(小高航、上海=菅原透、シンガポール=谷繭子)